そしてたぶん、

●灯りをともして

眠れない夜は
ことばを知らないことを知る
まぶたが薄いことを知る
寂しさの正体がつかめない

きっとどこかで咲いている
お気に入りの色を持つお花も
こんやは月光を受け止めない

眠れない夜は
ことばを持たないことを知る
鼓動の語りかける欲望に
生まれてはじめて
てのひらが鳴いた



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●マーブル

飛行船から落ちて
大地に叩きつけられた抱き枕が
涙も流さずに笑んでいる

自棄になって寝ころんだ頭のなか
それはいつかのじぶんのよう



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●目覚めよ

悲しみと同化するたび
少しずつ砂になっていく
決定打はまだ吹かない

どうか目覚めよ
わたしのなかのきれいごと



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●灯り

街灯に照らされて
もうひとりのわたしが現れる
するするとのびていく闇色の濃淡が
夢想のなかのわたしだった

起爆的な灯りを浴びて
生まれ変わる夢の向こう
とろりとした液体が流れ込んだ胃が
チッカチッカと流星を見る



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●摘む

すぐに寿命が来たならば
誰に否定されることもなく死ねるのに
生きている奇跡が
ただの理由を咲かす日々



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●海

掻き毟った胸から零れたものが
ひらひらと落ちていく
希望はどこへ行くのだろうと
不安におののいた胸のおく

爪に詰まったわたしの細胞を
インクに溶かして壜に詰めよう

井の中の蛙は大海に出る夢をみた
海底から見上げる水面のような
あの揺らめきはうつくしい



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●雨雲

齧りついた雨雲は甘かった
いつか食べた苺の飴のように

噛みしめた雲の繊維はもろく溶け
顎を伝って地に落ちる

食べたかったのはこんなものじゃない
もっと噛みごたえのあるものが欲しかった

苦くてからくて酸っぱくてごちゃごちゃした味の
一度食べれば二度と食べなくてもいいような

馬鹿みたいな雨雲が食べたかったのに



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●あなたとわたし

その悲しみにははいれても
その苦しみにははいれても

その問いかけにははいれない

語ることを許されたとしても
そこにいるあなたの問いかけに
わたしははいれない

悲しいと苦しいと言う声を
身にまとい生きられても

その問いかけだけは
はいる余地がない

そう感じているこころと呼ばれる場所が
どれ程みっともないのかを噛みしめながら

きょうも「おやすみなさい」と言う



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●祝福の毒

歓喜の音色を聴いた夜
あり得ないほどの穏やかさを欲した
そのグラデーションはどこまでも広がって
すべての命に響いたようにおもえたのだ
短絡的な意識を笑うことなどできまい

いつだってどこだって
歓喜に包まれて生きていたいと
おもわないなんて嘘だ



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●武器

切り抜ける術は
その腕にあるという
その腕にしかないという

午後の光を胸に焼きつけ
左目にかかる前髪を払う

もう抱き合うことはできないけれど
あの傷だらけの腕が好きだった

ことばに罅をもらったこの胸を
消毒してくれたあの腕へ
もう二度と言えない謝罪を

卑怯だったのに
それでも手放したくなどなかったと



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届かないてのひらの代わりに、ことばを届けよう。伝わらなくても、別にいいんだ。
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